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良心を持たない人たち

毎度突然ですが、大人のための心理学ネタです。

朝のテレビで、何処かの獣医師が、『患者』として連れてこられるペット達を、病気を治すどころか次々虐待し殺傷して、その動物病院を訪れた飼い主から100件もの訴訟を起こされているという話を聞きました。

私はこの話を聞いて、少し前に読んだ本を思い出しました。
『良心を持たない人たち』はアメリカのマーサ・スタウトという心理セラピストが書いた本です。
その本の中に、サイコパス=良心を持たない人(日本では、『反社会性人格障害』と訳されるようです)の例として、アメリカのとある精神病院に勤務する女性セラピストが登場します。

魅力的な外見を持った彼女は、ある病院に10年以上勤めて患者を診てきましたが、その本当の素顔は、治りかけた患者を精神的に打ちのめして重症患者に仕立て、それを優秀な同僚のせいに見せかけて陥れ、自分の立場を利用して次々と患者や同僚を騙し、自分に都合良く操り利用するという、信じられないものでした。
先の獣医師の話と、ちょっとかぶるような…?

そんな邪悪な素顔を持つ彼女が何故、10年間もそうと気付かれず、優秀なセラピストとして同じ病院に勤務し続ける事が出来たのか…不思議でなりませんが、いわゆるサイコパスは、『羊たちの沈黙』に登場するレクター博士のような兇悪な殺人犯はむしろ稀であり、多くはどこにでも居る普通の人の中に紛れ、『犯罪』にならない『精神的暴力』をふるい、刑務所に入ることなく生き延びているといいます。

多くはレクター博士のような不気味な外見を持っているワケではなく、むしろ魅力的な笑顔や巧みな話術でカリスマ性を持ち、自分を特別いい人間で、やさしく、責任感があり、時にはかわいそうなほど良く働くと見せかけるそうです。
ちなみに前述のセラピストの場合、人事権限を持つ上司を予め誘惑する事で、事実の発覚を妨げるという狡猾ぶりでした。

良心の欠如は、他者や社会に対して愛情や愛着を持てないという特殊な人格の歪みに起因するようですが、そういう人が作り出される原因はまだ完全には解明されていないようです。
ただ、恐らく先天的、後天的両方の側面があり、脳の機能の一部に障害があるらしいことは解ってきたようです。
日本を含む東アジアには比較的少ないと書いてありましたが、アメリカでは実に100に4人(4%!!)もそうした困った人達が居るといいます。

彼らは『自分より下』の人間は相手にしないそうです。自分にないものを持つ『誰か』に、特に恨みがあるわけでもなく、ただ何かを『奪う』ためだけに、優しく同情心を煽り、ウソをついて騙し操り、目的のものを手に入れるゲームを仕掛けます。
犠牲になるのは、優しくて情に厚くて、何かあっても、自分に問題があったのではないかと考えるような、善良な人。
困った事に、先に書いたようにサイコパスの『演技』を見分けるのはとても困難で、運悪くターゲットにされた善良な人は、多くの場合、そうと知らぬまま騙され搾取され、計り知れないほどの精神的ダメージを被るようです。

著者はセラピストとして、サイコパスに心傷つけられた多くの人達を診た経験からこの本を書いたようですが、残念ながら世の中には、そうした特殊な人が確実に、しかも少なからず存在する事、その見分け方や対処のためのルールについて解説しています。
全部は説明できませんが、この本の中には、他にも地域の名士として名高い高校の校長先生や、最後は社長にまで上り詰めた有能なビジネスマンなどの例も紹介されています。
そうした『権威』に惑わされない事や、多くの場合『泣き落とし』=同情を煽る行為が何より要注意であることと、気付いたら、それを治そうとか同情したりせず、とにかく遠ざかる事だと書いてありました。

恐い話ですが、『天網恢々(かいかい)粗にして漏らさず』という老子の言葉は我が国でもよく使われます。神様がこの世に張り巡らした網の目は、一見粗くてややもすると悪事を見逃してしまいそうだが、実は決して悪人を見逃さないもの…というような意味でしょうか。
この本の中でも、サイコパスは、多くの場合哀れな末路をたどりがちであると結んでいるのが、せめてもの救いでした。

ウソはいけないけど、ウソをつく人って、結構いますよね。
その中には相手のためを思うウソもあるし、多くは良心の呵責に耐えながらのものだと思います。だからそんな人達すべてを、そういう風に疑ってかかるのは、偏った考え方になってしまう。
けど、もしも繰り返し、ウソや同情を煽る行為を一人の人の中に見かけたら、中にはそんなケースもあり得るという事を、知っておいても良いのかもしれません。

by tama1366 | 2007-11-08 10:44 | 雑事